地域診断のための「見える化」の方法や進め方は、独自に準備したデータを活用するかしないかなど、どのような情報を「見える化」するか、その自由度と、ツールの操作性などを総合的に考慮する必要があります。この記事では、「見える化」に活用できるツールとしてどのようなものがあるか、その特徴をあわせて記載しました。

はじめに

 

地域診断のための「見える化」について、その種類について整理しました。

地域診断のための「見える化」の方法や進め方は、表1に示すように、利用可能な「見える化」ツールを活用するか、表計算ソフトや地理情報システム(GIS: Geographic Information System)を活用するかの2つに大別されます。また、利用可能な「見える化」ツールを活用する場合には、公開されているオープンデータなども含む、独自に準備したデータを活用するかどうかによっても異なります。どのような情報を「見える化」するかなどの情報の自由度は、表計算ソフトやGISを活用することで高まりますが、操作の難易度も高まります。

表1 見える化の方法の種類
タイプ方法独自データ地図表示情報の自由度操作性
A 「見える化」ツールを活用する方法活用しない可能低い普通
B「見える化」ツールを活用する方法活用する可能高いやや難しい
C表計算ソフト等を活用する方法活用する不可能高いやや難しい
D地理情報システムを活用する方法活用する可能高い難しい

 

タイプA 「見える化」ツールを活用する方法(独自データの活用なし)

このタイプには、様々なツールが公開されています。グラフ分析やGIS分析ができるものもありますが、独自のデータを活用することができません。そのため、ツールの提供者によって予め用意されたデータを参照するまでとどまります。

地域包括ケア「見える化」システム

最も代表的なツールに、「地域包括ケア(見える化)システム」があります。これは、厚生労働省により、都道府県・市町村における介護保険事業(支援)計画等の策定・実行を総合的に支援するための情報システムとして開発され、運用されているものです。介護保険に関連する情報をはじめ、地域包括ケアシステムの構築に関する様々な情報が一元化されています。分析方法として、グラフ分析とGIS分析が可能です。自治体職員等の担当者以外の、一般市民でも利用者登録をすることで使用できます。

図1の例では、東京都墨田区の8つの日常生活圏域と、青色のピンで訪問看護ステーションを表示しています。日常生活圏域の濃淡は、高齢者のうち後期高齢者割合の多さを示しています。このように、施設の配置計画等を検討することができるものとなっています。表示できる地域資源は、介護サービス施設・事業所(施設サービス、居住系サービス、在宅サービス、地域密着型サービス)などとなり今後の拡充が望まれます。GIS分析では、独自データを取り込む機能はありません。また、分析区域の最小単位は日常生活圏域となり、小地域までは対応していません。

図1 地域包括ケア「見える化」システム (平成29年1月29日取得)

なお、本システムを活用した介護給付費分析のプロセスが、厚生労働省老人保健健康増進等事業の「都道府県職員を対象とした保険者支援スキルアップのための研修カリキュラム等に関する研究開発事業」報告書に「介護給付適正化に向けた介護給付費分析のためのハンドブック」として記載されています。今後も利活用の事例が蓄積されていくことが望まれます。

JAGES HEART

JAGES(Japan Gerontological Evaluation Study,日本老年学的評価研究)プロジェクトによって開発された「見える化」ツールが「JAGES HEART」です。介護保険者(市町村および広域連合)が自らの現状を把握して政策を立案・実行し、改善状況をモニタリングしてその効果を検証し、さらなる改善につなげるというサイクルを回すという観点に最適化された設計となっています。

図2 JAGES HEARTによる、課題の見える化、地域診断の例

地理院地図(電子国土Web)

基本的な地理空間情報の「見える化」ツールとして、国土地理院が運営する「地理院地図(電子国土Web)」があります。基本的な地理空間情報を参照、印刷できます。表示を変更することで、市町村界のみを表示した白地図や航空写真などを表示できます。簡単な図形やテキスト情報の作成、印刷、保存などの機能も使えます。

地域経済分析システム(RESAS・リーサス)

医療・介護分野以外の、産業、人口、観光などの「見える化」ツールとして、内閣府まち・ひと・しごと創生本部による「地域経済分析システム(RESAS・リーサス)」があります。分析方法として、グラフ分析とGIS分析が可能です。グラフ分析では、実績値に加え、2040年までの推計値なども参照できます。介護予防の観点では、市町村ごとの総人口の推移予測といった、人口推移の大きなトレンドをつかむことができます。

図3 RESASによる某市の総人口の推計値

タイプB 「見える化」ツールを活用する方法(独自データの活用あり)

このタイプのツールは、GIS分析において、独自データを活用できる点に特徴があります。このタイプの活用しやすいツールとして、jSTAT MAPがあります。そのほか、Google Mapのように、既存のWebサービスを活用できる機能(API)を備えるものもあります。これらの機能の活用には、専門的な技術が必要ですが、「見える化」の情報選択の自由度は高いといえます。

地図による小地域分析(jSTAT MAP)

小地域に対応した「見える化」ツールとして、総務省統計局と独立行政法人統計センターが運用する「地図による小地域分析(jSTAT MAP)」があります。利用者登録をすることで利用できます。分析方法として、グラフ分析とGIS分析が可能です。データは、国勢調査、事業所・企業統計調査、経済センサスが収録されています。地域診断で活用できる指標として、例えば、国勢調査から、高齢化率、産業別就業者割合(第一次産業の就業者割合など)、単身世帯割合、人口密度などがあります。jSTAT MAPの特徴、強みとして、施設の位置情報などの独自データを取り込み、統計データとの関連を分析できることが挙げられます。

例えば、図4は、北海道旭川市を対象とし、オープンデータとして公開されている訪問看護ステーションを地図上にプロットしたものです。旭川市ホームページより、訪問看護ステーションの所在地情報を含むリストをダウンロードし、jSTAT MAPに読み込ませています。図中の記号は訪問看護ステーションを表しています。この点から半径1kmの円を作成し、その円に含まれる国勢調査の高齢者の人口を算出しました(円の大きさは任意に設定できます)。計算結果により、赤色の円内には約4千人以上の高齢者が居住していることがわかります。一方、紫色の範囲は高齢者が少ないことがわかります。このように、この例では、市内の訪問看護ステーションの位置や数と、居住する高齢者の数とのバランスを考察することができます。

独自に分析したい施設のデータを準備し、jSTAT MAPに読み込ませることで、自由度の高い分析ができる点が特徴です。また、このツールでは、算出結果をエクセル形式のレポートに自動的にまとめる機能もあります。

図4 jSTAT MAPによる旭川市の訪問看護ステーションの位置と半径1kmに居住する高齢者の数

タイプC 表計算ソフト等を活用する方法

エクセルなどの表計算ソフトを使い、独自のデータをグラフ化し「見える化」するタイプです。介護予防に関わる多くの方が日常的に親しんでいる行為といえます。公表されている公的統計に加え、自治体比較や時系列比較などの「見える化」に対応したデータベースが2016年運用されています。

経済・財政と暮らしの指標「見える化」データベース

内閣府により、2016年7月から運用されているデータベースとして、<経済・財政と暮らしの指標「見える化」データベース>があります。このツールは、グラフ分析やGIS分析などの機能はなく、表形式のみでの表示となります。登録不要で利用できます。47都道府県別、または1741市区町村別の自治体ごとに、また、時系列(1975年~直近のうち可能な限り広く)に整備した各種データ・指標の比較により、経済・財政と暮らしに関係する様々な地域差を「見える化」できるデータに特徴があります。

例えば、目的別歳出など地方行財政データ、医療・介護提供体制、健康診査受診率、医療費、介護認定率、介護保険給付額など社会保障データ、可住地面積、都市公園数など社会基盤データ、教育、人口、経済データ、保育所数、刑法犯認知件数など暮らしデータなどが収録されています。ダウンロードしたデータを加工し、自ら、グラフをつくる必要があります。

図5は、内閣府による試行的な分析事例です。都道府県ごとの集計ですが、児童福祉比率と普通出生率との関連を考察しています。ダウンロードしたデータをエクセルで加工することでこのような「見える化」が可能になります。

図5 都道府県ごとの児童福祉費と普通出生率の関係(内閣府ホームページより)

タイプD 地理情報システムを活用する方法

GISを活用し、様々なデータをグラフ化し「見える化」するタイプです。GISの操作を習得しなければなりませんが、活用できるようになれば、様々な情報を「見える化」することができます。例として、図5に、某地域における男性の老人クラブ参加率を示しました。左側の図は小地域ごとに集計した結果で、右側の図は、それらのデータを平滑化したものです。南東側に参加者が少ないという大きなトレンドをつかむことができます。

図6 地理情報システムにより小地域ごとの結果をスムージングした例

国土交通省のホームページに、「介護・福祉業務に係る地方公共団体向け教材」としてGISの活用方法のマニュアルが示されています。介護・福祉部門及び介護・福祉に関わる部門の地方公共団体職員を対象とし、介護・福祉業務におけるGISの活用事例や活用の際の課題等について学び、GISを実践的に活用するスキルを獲得することを目的とした情報が多数あります。また、「無償・低コストでGISを導入する方法を知りたい」などの具体的な手順が国土交通省の「地方公共団体向け地理空間情報に関するWebガイドブック」にあります。

GISを活用した研究は広く実施されています。大学などの研究機関との共同研究によって、GISの積極的な活用を推進することもできます。

まとめ

地域診断のための「見える化」の方法や進め方は、独自に準備したデータを活用するかしないかなど、どのような情報を「見える化」するか、その自由度と、ツールの操作性などを総合的に考慮する必要があります。既に運用されている利用可能なツールを活用する場合、どのようなツールのなかにどのような指標があるのかを予め知る必要がありますが、そうした情報を集めるのは容易ではありません。

介護予防活動では、JAGES HEARTのように、既に経年にわたる運用で改良、最適化が試みられているツールの活用も期待できます。

本レポートは、AMED「データに基づき地域づくりによる介護予防対策を推進するための研究」の一環で作成しました。研究班が作成したガイドブックは下記リンクよりダウンロードできます。