ゼロ次予防戦略とは

健康の維持・増進のために、できうる限りの健康習慣をこころがけてもらうための個人への働きかけは大変重要です。しかし、本人の健康への意識や行動は容易に変りません。さらに、その人の現時点の生活やこれまでの生活からも影響を受けることがわかってきました。そこで、本人の行動や努力だけに期待するのではなく、暮らしているだけで健康になってしまうような、環境づくりを通した予防のアプローチ”ゼロ次予防”が注目されています。

ゼロ次予防戦略によるまちづくりは、個人の行動や選択へ働きかける、建造環境や社会環境を整えていくことをめざします。基礎研究として、暮らしているだけで健康につながる地域要因の探索を進めています。また、応用研究として、健康によい影響をもたらす要因を、実際のまちづくりのなかに適用する実証研究を進めています。

歩行者・自転車優先の駅前広場のデザイン

基礎研究「建造環境と健康」

基礎研究の例をひとつ示します。全国24市町の65歳以上の高齢者74,583人のデータ(JAGES2010データより)を解析して得られた結果です。歩道が多い地域に住む高齢者の閉じこもりを1とした場合、歩道が少ない地域に住む高齢者の閉じこもりは1.48倍であることが分かりました。歩道が少なく歩きにくい地域では、高齢者の外出行動や健康に好ましくない影響がうまれているかもしれません。

応用研究「デザイン・価値提案」

応用研究として、基礎研究で得られた知見を実際の建物づくりやまちづくりに展開しています。「柏の葉ウォーカブルタウン」、「ふなばしメディカルタウン構想」、「大学連携型CCRCの健康空間デザイン」に取り組んでいます。産学連携では、「健康な建築」、「健康なワークプレイス」に関する研究をはじめとして、いくつもの企業と研究を推進しています。

柏の葉ウォーカブルタウンのデザイン戦略

産学連携共同研究で開発・設置した健康への気づきを促すプログラム

おわりに

本研究分野は、暮らしているだけで健康になる環境の要因を明らかにし、その要因を地域に増やしていくことを目的としています。これらが実現すると、健康増進に積極的な人々の健康が高められるとともに、健康無関心層の健康増進につながることが期待できます。健やかな生活により、社会全体の生産性が高められ、持続的で成熟した社会の発展に貢献できます。