辻大士,宮國康弘,金森悟,花里真道,近藤克則

学会抄録集より

背景・目的

我々は、スポーツ関係のグループへの参加割合が高い地域に暮らしている高齢者は、たとえ自身が参加していなくとも抑うつのリスクが低いことを明らかにした。高齢期の抑うつは認知機能低下を引き起こす要因であるため、スポーツグループの参加者が多い地域に暮らすだけで、その後の認知症発症が抑制されるかもしれない。本研究では、地域の高齢者のスポーツグループ参加割合と高齢者個人の認知症発症との関連を、6年間の縦断データを用いて明らかにすることを目的とした。

方法

日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study : JAGES)では2010年8月から2012年1月にかけて、全国16市町村の要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者を対象に自記式郵送調査を実施し62,426人から回答を得た(回収率65.1%)。そのうち、スポーツグループへの参加頻度に回答し、かつ30人以上の回答が得られた地域に在住し、その後6年間の認知症発症(認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱ以上)の状況を追跡できた40,308人を分析対象とした。スポーツグループへの参加頻度が月1回以上の場合“参加あり”とし、346の小地域(およそ小・中学校区)ごとに参加割合を算出した。説明変数は地域レベルの参加割合(10%単位)、個人レベルの参加、地域レベルの参加割合×個人レベルの参加(クロス水準交互作用)とし、年齢、性、治療中疾患(脳卒中、高血圧、糖尿病、聴覚障害)、BMI、飲酒、喫煙、教育、等価所得、社会的孤立、可住地人口密度を調整したマルチレベル生存分析を実施した。

結果

213,906人年(平均5.3年間)追跡し、3,940人(9.8%)が認知症を発症した(18.4人/1,000人年)。スポーツグループ参加割合は0.0~56.5%の地域差が見られた(平均25.2%)。全共変量を調整したマルチレベル生存分析の結果、それぞれのハザード比(95%信頼区間)は、地域レベルの参加割合(10%単位)が0.93(0.86–0.997)、個人レベルの参加が0.67(0.60–0.74)、それらの交互作用項は0.87(0.77–0.99)であった。

結論

スポーツグループに参加する高齢者が10%多い地域に住む高齢者は、個人の参加状況の影響を調整しても、その後6年間において認知症を発症するリスクが7%低いことが明らかとなった。また、参加している個人が、参加者の多い地域に住んでいることは、認知症発症のリスクがさらに低くなることが示唆された。