建物室内に使用される建材や家具などから発生する揮発性有機化合物(以下VOC: Volatile Organic Compounds)が原因で体調不良を引き起こすシックハウス症候群が社会問題1)となり、厚生労働省による指針値及び総揮発性有機化合物(以下、TVOC: Total Volatile Organic Compounds)濃度の暫定目標値400μg/m3の設定2)や国土交通省による建築基準法の一部改正など様々な対策が実施されてきました。
しかし、指針値が設定された物質は13物質にとどまり、近年の新築住宅では未規制の化学物質が高濃度に検出される傾向がみられ、未規制物質による健康リスクが懸念されています3)。
未規制物質による健康リスクを回避する室内空間を実現するためには、“未規制物質を含めた化学物質総量としてのTVOC”低減に向けた対策が必要です。2010年に日本建築学会環境基準に「総揮発性有機化合物による室内空気汚染防止に関する濃度等規準」としてTVOCが新たに評価対象に加えられました4)。
VOCの主な発生源となる建築材料について、これまで放散速度試験5)や実験住宅を用いた室内VOC濃度調査6)などが実施されており、TVOC低減を目指した空間計画の資料として大変貴重です。一方、実住宅では数多くの建築材料が使用されるとともに個々の材料の材齢も異なり、かつ温度や湿度、換気量、室の大きさなどの環境条件も異なるため、部分からの室内濃度予測の積み重ねにもとづく計画及び設計は困難な現実があります。
空気中化学物質を低減した室内空間の計画・設計支援ツール(以下、ツール)は、上記の背景を踏まえて、空気中化学物質を低減した室内空間の計画を支援することを目的として開発されました。
なお、TVOCは毒性や物性の異なる様々な物質の総量としての数値であるため、本質的に毒性学的指標ではありません。そのため、ツールは、室の安全性を判定するものではなく、VOCリスクを低減するための目安としてご利用ください。
ツールは2013年に日本建築学会により公開された論文「住空間における総揮発性有機化合物濃度の予測と計画支援ツールの開発」7)のアルゴリズムを用いています。
大学構内に建設した8戸の住宅における50個の測定結果を元にして、数量化Ⅰ類注1という多変量解析手法を用いています。
目的変数をTVOC濃度注2、説明変数を平均温度、平均湿度、室容積、構造、床材、壁・天井材、築後月数の7項目としています。結果、決定係数は0.79でした。
論文は誰でも閲覧できますので、より詳細な情報については原著論文をダウンロードいただきご覧ください。
http://ci.nii.ac.jp/naid/130004506427
注1:<数量化Ⅰ類>連続した定量データを扱う多変量解析手法である重回帰分析に対し、定性的なデータを扱う多変量解析となる解析手法。ダミー変数を用いた重回帰分析でも同様の結果が得られる。
注2:<TVOC濃度>本ツールでは、VOC(Volatile Organic Compounds)61物質、アルデヒド類13物質、SVOC(Semi Volatile Organic Compounds)42物質の合計116物質の合算値もしくは、VOC65物質、アルデヒド類16物質の合計81物質の合算値をTVOCとした。